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妊婦さんと口のケア

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 妊婦さんには歯科検診が推奨されており、補助を行っている自治体が大半ですが、実際に受診される方は3人に1人程度とされています(大分県ではさらに低く、2割未満だそうです >< )。なぜ妊婦さんには歯科受診が推奨されているのでしょうか?その理由について今回お話をしていきます。

 

妊婦検診の受診率のグラフ

​妊娠中は歯ぐきが腫れやすい

 妊娠初期からプロゲステロンとエストロゲンというホルモンが増加しますが、プロゲステロンは炎症を引き起こしやすくし、エストロゲンは歯周病菌の増加を促すため、結果として歯ぐきが炎症を起こしやすくなります。また、唾液の分泌量が低下して自浄作用も低下するため、プラークが付着・増加しやすくなります。加えてつわりによる食生活の不規則化や歯磨きの困難化が更なる悪化要因ともなるのです。嘔吐を繰り返したり頻繁に食べ物を口にしていると、口の中が酸性に傾くため、虫歯にもなりやすいです。ほかにも親知らずが埋まっている人は、周りの歯ぐきが腫れてくるトラブルも起こりえます。→参考記事:親知らずは抜くべき?

歯ぐきが腫れることによる影響

 歯ぐきが炎症を起こしていると出血しやすくなり、出血した部分から口の中の細菌が侵入して全身に回ります。侵入した細菌は免疫によって撃退されますが、この際にサイトカインという物質が増加します。サイトカインはプロスタグランジンという物質の分泌を促し、このプロスタグランジンには子宮収縮促進作用(=陣痛促進)があります。つまり、歯ぐきが炎症を起こしていると体内のプロスタグランジンが増加しやすくなり、早産や低体重児出産のリスクが高まるとされているのです。

 

​歯医者を受診する意義は?

​①歯石除去:歯石自体は歯ぐきの炎症を起こしませんが、歯石の周囲に汚れ(プラーク)がつくことで、歯磨きによる除去が難しくなります。歯医者で歯石を取り除くことで歯ぐきの周りを清掃しやすい環境を整えることができます。

②虫歯治療:虫歯が拡大して歯の神経に及ぶと激痛が起こりえます。激しい痛みは大きなストレスとなり、胎児にも悪影響を与えます。妊娠後期だと麻酔が使いにくいため、予め対処しておくことが望ましいです。

③親知らずの治療:歯ぐきに埋まってる親知らずの周りに細菌が侵入すると、歯ブラシなどでは取り除くのが難しいため、歯医者での洗浄・消毒が必要です。トラブルになりうる親知らずは妊娠前に抜いておくのが理想です。

④歯みがき指導:歯医者で歯石を取り除いても、ご自身での歯磨きが適切に行われていなければ歯ぐきは炎症を起こして腫れてきます。歯ぐきが安定した状態を保つためには、正しい歯みがき方法を習得するのが最も大切です。

​適切な歯科受診の時期

妊娠初期(16週未満):初期はつわりがひどくなりやすく、流産もしやすい時期なので、負担の大きい治療は避けます。応急処置にとどめて、安定期に入ってから治療を行います。

妊娠中期(16週~28週):最も治療に適している時期です。過度に負担をかけなければ大抵の治療は可能です。

妊娠後期(29週以降):お腹が大きくなってくるので、治療によって長時間仰向けの体位をとり続けることは好ましくありません。応急処置で対応して、産後落ち着いてから治療を行います。

治療による胎児への影響は?

①麻酔による影響:歯医者で用いられる麻酔は局所に作用させる麻酔なので、全身に多少は移行しますが途中で吸収・分解されるため、胎盤を通じて胎児に及ぶのはほとんど無いと言って差し支えないレベルです。むしろ痛みを我慢することで生じるストレスの方が問題とされていますので、麻酔を使用して治療を行うことが望ましいです。麻酔には作用を強めるための血管収縮剤が含まれており、妊娠後期に用いると陣痛を促進する恐れがあるため、どうしても麻酔を使用する場合は血管収縮剤を含まない麻酔薬を用います。

②薬による影響:歯科で用いる痛み止めは効き目の強いNSAIDs(ロキソニン、ボルタレン)と効き目は弱いが負担の少ない非NSAIDs(カロナール、アセトアミノフェン)があります。妊娠初期にNSAIDsを服用すると流産のリスクが高まるとの報告がありますが、問題ないという意見も見られるので、使わないことに越したことはないと思いますが、使ってしまったからと言ってそこまで気にする必要はないかと思います。妊娠中期は問題なくNSAIDsを使えますが、妊娠後期はここでは割愛しますがいろいろな影響があると言われていますので禁忌とされています。非NSAIDsは比較的安全性の高い薬ですのでどの時期でも問題なく使えますし、妊娠中期でも不安のある方にはこちらを処方しています。化膿止め(抗菌薬)について、主に歯科で用いられるのはペニシリン系、セフェム系、マクロライド系で​、当院でもこれらの抗菌薬を使っていますが、いずれも妊婦への使用は問題ないとされています。

​③レントゲンによる影響:レントゲン撮影時の放射線が胎児に影響を与えるのではないかと気にされる方がいらっしゃいますが、歯医者で行うレントゲン撮影は医科でのレントゲン撮影と比較しても非常に少ない放射線量です。小さいレントゲンで0.01mmSV、全体のレントゲンで0.03mSV、歯科用のCTで0.1mmSV程度の被ばく量となっており、日本で1年間あたりに自然に被ばくする量は1.5mmSV程度であることと、人体に影響を与える被ばく量が100mmSV程度と言われていることを踏まえるとほとんど問題にならないと思います。さらにこの放射線は口腔内に向けており、首から下は防護エプロンで覆った状態で撮影を行うので、首から下への被ばく量は更に少なくなります。レントゲンを撮影しないと得られない情報も多いので、妊婦さんであっても正確な診断を下すためにレントゲンの撮影をお願いしています。

産後も口腔ケアは大事

 出産後はホルモンのバランスが元に戻るため、歯ぐきの腫れやすさは元に戻ります。ただし、生まれたお子様の口の中に初めは細菌は存在しておらず、両親などの保育者の唾液を通じて虫歯菌や歯周病菌が移っていきます。細菌が移るのを永久的に阻止することは現実的に考えて無理ですが、時期を遅らせることによってその後に虫歯になりにくくなると言われています。同じ箸やスプーンを使うことによって細菌は移りますし、熱い食べ物をフーフーして冷ますことによっても細菌は移ります。しかし、こういったお子様とのスキンシップを完全に断つのは難しいと思いますし、それよりも保育者の口の中を清潔に保つことのほうが大切だと思います。口腔ケアが不十分だと細菌が移行しやすくなると言われていますので、お子様の歯を虫歯から守るためには産後もできるだけ歯磨きする時間を確保していただきたいですね。

 

妊婦検診
産後も口の中をケアしましょう

 今現在(令和5年の時点)、別府市の妊婦歯科検診は補助が出ていますが、完全に無料で済むのはあくまで検診だけで済ませる場合です。レントゲンを撮影しようとしたり、歯石取りなどを行おうとすると、治療となりますので負担が発生しますが、初診の方は初診料が再診料に置き換わりますので若干ではありますがお得となります(とはいっても患者側のメリットは少ないかなとは思います ^^; )。補助によってもう少し負担が減るようになれば検診の受診率も上がると思いますがなかなか難しいですね。

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